また使いたい、ではなく「もっと使いたい」。視覚障害当事者によるAIスーツケースレビューまた使いたい、ではなく「もっと使いたい」。視覚障害当事者によるエーアイスーツケースレビュー
日本科学未来館(にっぽんかがくみらいかん、以下、未来館)は、未来館などが開発をすすめる視覚障害者向け自律型誘導ロボット「AIスーツケース(エーアイスーツケース)」の定常的(ていじょうてき)な実証実験を2024年4月18日から開始しました。
混雑などの館内のさまざまな状況に対応するナビゲーション技術のさらなる向上、社会的理解の促進などを目指すとのこと。
なお、視覚障害者向け誘導ロボットがひとつの施設内で毎日運用されるのは世界ではじめてです。
そこで今回は、ご自身も中途の視覚障害をお持ちの白鳥環(しらとりたまき)さんに実際に体験してもらいました。
AIスーツケース(エーアイスーツケース)で「プラネタリー・クライシス」を体験
今回体験してもらったのは「プラネタリー・クライシス」。さわって体験できる展示の多い、未来館のなかでも人気の常設コーナーです。
未来館3階の「AIスーツケース・ステーション(エーアイスーツケース・ステーション)」で使いかたのレクチャーを受け、スーツケースとともに5階の展示を鑑賞してもらい、ふたたび3階に戻るというコースを体験してもらいました。
なお、当事者のかたは体験の3週間前から電話で予約をすることができます。
ここからは、白鳥(しらとり)さんによる体験レポートです。
AIスーツケース(エーアイスーツケース)の体験前後の違い
体験前後の違いがあるとすれば、スーツケースと人間の位置関係でしょうか。スーツケースというと、人間が前に立って引くイメージがあります。
しかしこのスーツケースはその逆。スーツケースに前を歩いてもらい、人間がそのうしろをついていくイメージです。
人間より先を歩くことで危険を察知し、いざというときはスーツケースが先にぶつかってくれるという意図があると聞いて納得です。
ガイドヘルパーさんのような動き
体験する前はもっとロボット感があると思っていたけれど、想像以上に動きが自然で、ガイドヘルパーさんに誘導してもらっているのに近い感覚でした。いつもどおりやればいいんだと思いました。
私自身、ガイドヘルパーさんと美術館に行き、絵画の説明などをしてもらうことがあります。芸術作品は抽象的なので、人間の目で見てその人のフィルター越しに解説してもらえる良さがあります。
今日は科学的な展示ということもあって、解説の方法もまた異なるなと。ロボットによって客観的に説明してもらえるのが新鮮でした。
この解説を美術館でやってもらったらどうなるんだろう、と想像をふくらませながら体験していました。
ちなみにこの話をすると「目の見えない白鳥さん(しらとりさん)、アートを見に行く」の話になりますが、苗字は同じでも白鳥さん(しらとりさん)違いです。
人間のようなこまやかな配慮このスーツケースは、まさに相棒でした。
細かくアナウンスがあったり、私たちに寄り添った挙動をしてくれました。「自分の目が見えていたら、きっとこうしていたんだろうな」と思うことをやってくれたというか。
たとえば外出をする際、地図アプリのGPSをスクリーンリーダーで聞きながら目的地まで向かうことがありますが、曲がるべきタイミングがわからないことがたびたびあります。
車道でまがろうとしたりすることもあって…。命がいくつあっても足りないと感じるし、外出は命懸けです。
その点このスーツケースは、曲がるときも一度とまってから曲がってくれるので安心感がありました。
白杖(はくじょう)やガイドヘルパーなしでエレベーターに乗れた
体験する際は近くに未来館のスタッフさんがいますが、基本的にはスーツケースとの単独行動です。
まず3階で説明を受けたあと、5階の展示に向かうためエレベーターに乗りました。
このスーツケースと一緒にいたらエレベーターでぶつからずに乗り降りできたし、しっかりスーツケースが誘導してくれるのでエレベーターのなかでの自分の立ち位置もわかりました。
目的のフロアについてドアが開いてから、いつ歩き出すかも絶妙なタイミングでわかるのもうれしかったです。
見えにくさを感じない人からすれば当たり前で些細なことだと思いますが、エレベーターの乗り降りを白杖(はくじょう)もガイドさんの手も借りずにできたことはすごいこと。
「見えにくくなってから、シンプルなことができなくて苦しんでいたんだな」と改めて気づきました。
グラフをさわって理解した
普段から本や論文なども読むのですが、グラフの読解は特に難しいんです。今日の展示でさわったグラフは気候変動についてのものでしたが、グラフにふれるとその変化の様子が触覚でわかるので、からだで理解することができました。
見えていた頃のインパクトや印象の強さとはまた違った感覚かもしれません。
ちょうど今、読んでいる本がフィボナッチや黄金比の話なので、特にわかりづらく感じていて。この本のグラフもさわれたらいいのにと思いました。
体験しているとき、白杖(はくじょう)を持ちたいと思わなかった
もちろん外では白杖(はくじょう)を持たなければいけませんが、この体験中は、不思議と持ちたいとは思わなかったんです。
むしろ白杖(はくじょう)を持っていたら邪魔だろうなとすら感じていました。
欲を言えば、今はスタッフさんがついてくださいますが、これが完全に当事者ひとり、そしてこのスーツケースだけで館内走行できるようになれればさらにいいなと。
このスーツケースをまた使いたいかと言われたら「もっと使いたい」というのが正直な感想です。
たとえば美術館などで作品を鑑賞したあとに、このスーツケースと一緒にカフェに行ってお茶をしながら余韻を楽しみたい。そのカフェでもスマートに注文ができるといいですよね。
一人で行動したい時もあるじゃないですか。それができるかもしれないなと思わせてくれたのが、このAIスーツケース(エーアイスーツケース)でした。
未来館では、この実証実験を通してさらにデータを蓄積し、よりスムーズにアシストできるよう改良を重ねていくそう。
一年後は今日よりさらにスムーズに運用できていることでしょう。
日本科学未来館(にっぽんかがくみらいかん)
住所:〒135-0064 東京都江東区青海2丁目3番6号
開館時間:10時から17時(入館券の購入および受付は16時30分まで)
休館:火曜日(ただし、祝日や春夏冬休み期間などは開館の場合あり)、年末年始(12月28日から1月1日)
入館料:大人630円、18歳以下210円
電話番号:03-3570-9151(開館している日の10時から17時)
URL:https://www.miraikan.jst.go.jp/research/AccessibilityLab/AIsuitcase/
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