「AIスーツケース」、屋外で単独走行へ向けまた一歩「エーアイスーツケース」、屋外で単独走行へ向けまた一歩
日本科学未来館(にっぽんかがくみらいかん:以下、未来館)が運営する、視覚障害者の生活を支える技術を研究開発するコンソーシアム「にっぽんかがくみらいかんアクセシビリティラボ」が、一般社団法人じせだい移動支援技術開発コンソーシアムの協力のもと開発をすすめている「エーアイスーツケース」。
現在、視覚障害者の移動手段はおもに、誘導、盲導犬、点字ブロック・白杖(はくじょう)の3つ。エーアイスーツケースは、視覚障害者を目的地まで誘導するスーツケース型のロボットで、前述の3つのどれとも異なるものとして位置づけられ、期待されているもののひとつです。
きっかけは、未来館の館長で、IBMフェローでもある全盲の浅川智恵子(あさかわ ちえこ)氏が出張の際に「スーツケースが自動で動き、道案内をしてくれたら」と感じたことだそう。2017年からあさかわしが客員教授を務める米国カーネギーメロン大学で開発が始まり、2019年から前述のコンソーシアムが中心となり推進しています。2023年9月のこの日、実証テストがおこなわれました。
前回の屋外実証テストから約半年
2023年1月におこなわれた、はじめての屋外実証テストでは、未来館を起点に新交通ゆりかもめ「テレコムセンター」駅付近まで体験者を誘導して走行しました。
迷いながらも一生懸命、前に進もうとするエーアイスーツケースの姿を見て、まるで“はじめてのおつかい”を見ているような気分になったあのときから、気がつけば約半年の月日が経過していました。
今回の走行ルートは前回よりも距離をのばし、未来館の出入り口付近から新交通ゆりかもめ「テレコムセンター」駅の改札まで体験者を誘導して走行するというもの。
前回の実証テストのときも頼もしく誘導する姿に胸が熱くなったのですが、今回は未来館の出入り口にある自動ドアや、ゆりかもめの駅に続くエレベーターもコースに追加されており、かなりハードルが高くなっています。それだけ開発が進み、安全性が高くなったということでもありますが、はたして…。
難所、クリアなるか?!
そうして迎えた実証テストの日。はじめは館長のあさかわしがお手本を見せながら走行しました。未来館の出入り口の自動ドアを通過し、順調に“あの場所”まで向かいます。
“あの場所”とは、1月の屋外実証テストでエーアイスーツケースが少し考え込んでしまった横断歩道のこと。
人が多く、車も通り、点字ブロックなどの凹凸に加えて、段差もある難所です。なんだか、わが子を見守る母のような気持ちで取材に臨みました。わたしでさえもそう感じるのだから、開発にあたっている最前線の人たちはそれ以上にドキドキしていたに違いありません。
この日に集まった参加者のなかからひとり、エーアイスーツケースとともに横断歩道を渡る人を募っていました。
正直に言うと、ここで両手をあげて立候補したいくらいの気持ちでしたが、そこはグッとこらえました。今日はなんとしても、この目でその瞬間を見届けなければなりません。
前回は横断歩道を渡りはじめるあたりで、エーアイスーツケースが立ち止まり、本体を左右に振ってキョロキョロと考え込んでいるような挙動が見られました。
人間と同じでエーアイも考え込むんだ…と、妙に親近感を覚えてしまったのですが、今回はどうでしょう。祈るような気持ちでカメラを構えていました。
わたしの心配は杞憂に終わり、立ち止まることなくあっさりと横断していました。もう、心のなかではずっと拍手していました。
そのまま順調にすすんでいき、途中でほかの参加者と交代しながら新交通ゆりかもめ「テレコムセンター」駅へ向かいます。
さらに頼もしくなっていた
途中でわたしも体験させてもらいました。今回はメガネをはずし、さらに両目を閉じた状態でエーアイスーツケースに誘導してもらいましたが、なんと安定感のあること。
1月の屋外での実証テストやCSUN(シーサン)などでも屋内用のエーアイスーツケースを体験していたので、わたし自身が慣れてきたのもあります。
それにしても、ハンドルを握ったときの安定感、歩き出すときのなめらかさといい、点字ブロックなどの段差を乗り越えるときのスムーズさといい、相棒感が増していました。
新交通ゆりかもめ「テレコムセンター」駅のエレベーターから改札までは、館長のあさかわしにバトンタッチ。ここも問題なく乗り降りし、改札前まで無事に到着しました。
“はじめてのおつかい”から、つぎのステップへ
約半年でこんなに進歩しているなんて。今回も胸が熱くなったのは言うまでもありません。ここまでに、たくさんの技術が搭載され、アップデートがおこなわれていました。
光センサー技術のLiDAR(ライダー)と、わずか数センチメートルの誤差という高い精度で位置情報を求められるそくいほうほうのRTKを駆使し、屋内や屋外、状況に応じてAIや独自のアルゴリズムで使い分けをおこなっていたり、さらに屋外用では「暑さ対策」も重要だったり…。
一歩先の未来を、少しずつ「今」に近づけるための惜しみない開発が日々おこなわれています。そして確実に着実に、その未来が近づいていることを感じられました。
とはいえ、困ることもあるようで…。立ち止まってキョロキョロするかわりに、4つの車輪のうち片側の車輪だけクルクル回していたのをわたしは見逃しませんでした。困ったときの挙動まですっかり大人っぽくなっていて「大きくなったね」とほほえんでしまったのは、ここだけの話です。
最終ゴール目指して
「最終ゴールはエーアイスーツケースで、視覚障害者を海外に連れていくこと」と語る未来館・副館長のたかぎひろのぶ氏。
満点を100点とすると、現段階の屋外用エーアイスーツケースは「35点くらい」と辛口評価ながらも「2023年から2025年を社会実装の準備期間と位置づけ、2026年から本実装できればと考えている」と意気込みを語る姿は、自信と希望にあふれていました。
屋内用のエーアイスーツケースも
なお、エーアイスーツケースには今回紹介した「屋外用」のほかに「屋内用」もあります。
どちらもスーツケース型のロボットではありますが、使用される場所や求められることの違いもあり、搭載されているものや仕様は大きく異なります。
屋内用は今後、未来館内での使用を想定し、接続されたスマートフォンとネックスピーカーでコミュニケーションをとりながら館内の案内をしてくれることも計画しているそう。
未来館でAIスピーカーに誘導やガイドをしてもらいながら展示をたのしめる未来も、そう遠くなさそうです。
どんどん進化と成長を続けるエーアイスーツケース、今後も目が離せません。
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