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「福山雅治という“おし”がいるから前を向けた」ブラインドライターズ・小林直美さんインタビュー

ブラインドライターズ小林直美さんの写真。緑にかこまれた背景を背にほほえんでいます

2023年4月23日からTBS系で放送されている日曜劇場「ラストマン全盲の捜査官」(以下「ラストマン」)。 

福山雅治さん演じる全盲の人たらしFBI捜査官と、おおいずみようさん演じる犯人逮捕のためには手段を選ばない孤高の刑事が凸凹バディを組んでなんじけんに挑んでいく、話題のバディドラマです。

私がこのドラマの放送を知ったのは、番組公式SNSでもテレビでもなく、以前取材した合同会社ブラインドライターズのツイートでした。小林直美さんの心の底から歓喜の声があふれ出るような、ただならぬ熱量を感じてインタビューをお願いしたのでした。

 

小林直美さんプロフィール

合同会社ブラインドライターズ所属。先天性緑内障により本人は弱視。14年来の“おし”である福山雅治さんのライブに一人で行くためにはくじょうを持つことにしたという、すじがねいりの福山雅治ファン。

 

「どうして私は自分の都合で行きたいところに行けないんだろう」

小林さんがはくじょうを持つきっかけは、福山雅治さんのライブに一人で行きたいと思ったからでした。

小林さん:当時はまだ、見えにくさはあるけれどはくじょうをもっておらず、はじめての場所に行くときは、家族や友人のせいがんしゃに一緒に行ってもらっていました。

しかしその一方で、ライブに行くことはもちろん、Twitterでつながった友だちと会いたいとき、自分の場合は同伴者の都合が最優先になってしまい参加できないことも。自分が行きたいところに、ほかの人の都合で行けなくなることが悔しかったんです。

愛用しているハクジョウと小林さんの写真。優しいまなざしでハクジョウを見つめています。ハクジョウには、だるまをモチーフにした福山さんのキャラクターマスコットがついています
福山さんのライブでゲットした、マシャだるまをハクジョウにつけている

 

小林さん:それなら、一人で行けるようになればいいんだなって。ハクジョウを持ったら一人で行けるようになるかなと思ったんです。

そうして小林さんはハクジョウを持ち、近所を歩くなどしてトレーニングをおこなったそう。最近ではデジタルチケットの操作も自身でおこない、昨年12月もひとりで福山さんのライブに参加したそうです。

 

ほかに福山さんがきっかけになったことは?

小林さん:ぜんぶですね! 福山さんが映画に出ることがわかれば、原作を読みたくなって、音声で読み上げるKindleやデイジーを聞くようになりましたし。

Twitterをはじめたのも、福山さんファンの人とつながりたかったから。雑誌も読みたいけど、誌面の文字が読めないから、アプリを入れてOCRなどの文字認識アプリを使うようになりました。私の何かのアクションのきっかけには福山さんがいます。

 

当事者からみた「ラストマン」

あらためて、「ラストマン」がはじまると知ったとき、どんな気持ちでしたか?

小林さん:こんな日がくるとは思わなかったんです。福山さんのラジオなども聴いていますが、これまで特に障害者について匂わせるような話題もなく…。なので、福山さんが障害当事者の役、それもダイレクトに視覚障害者役を演じるとは思いませんでした。

ドラマの公開を知った姉からも「やばいじゃん。福山さんが直美の領域に入ってきた!」って。もう、姉妹で大興奮でした。私、びっくりすると声がでなくなるタイプなのですが、感動のあまり「ウッ…」ってなりました。

 

みなみさんに共感する部分もたくさん

これまで福山さんを想って前進してきた小林さんだからこそ、その喜びは人一倍だったと思います。実際にドラマを見てどうでしたか?

 小林さん:私は視野の一部がみえるタイプの弱視なのですが、福山さんがハクジョウを持って歩いている姿が感動的でした。Twitterでつぶやいても、あまりの感動で、ただただ「かっこよかった」しかいえなかったくらい(笑)。

福山さんのことを笑顔で語る小林さんの写真。手元にはマグカップにハイッタ飲み物があります
テレビの録画とティーバーを駆使して繰り返しドラマを視聴しているそう

 

小林さん:ブラインドライターズでは毎週、ドラマの放送後にTwitterのスペースを開催しています。そこではドラマの感想を自由に話しているのですが、当事者として共感できるところも多いという話題もありました。

たとえば福山さん演じるみなみさんがお料理をするシーンがありましたが、お魚が上手に焼けない、焼き物が苦手というのは視覚障害者あるあるです。

私も普段から料理をしていますが、揚げ物などは火の通り具合がわからないので、すでに一度火をとおしてある冷凍食品を使用することもあります。もちろん当事者のなかには、から揚げも余裕でつくる人もいますよ。

 

意外と知られていない?全盲と弱視の見えかた

弱視あるある「文字が大きければみえる」わけではない

さきほど小林さんご自身は弱視とお話されていましたが、視覚障害というと、みなみさんのような全盲のイメージを持たれる人が多い気がします。小林さんの現在の見えかたについて教えてください。

小林さん:“弱視”と一言で言っても、全体がぼやける人、視野が欠けている人など、人によってかなり個人差があります。私の場合は、みぎうえの一部が見えているため、文字は厳しいけれど移動はそれほど大変ではないほうです。

弱視の全員に当てはまるわけではありませんが、「大きければみえる」というわけではないことはなかなか知られていないかもしれません。同じ大きさの文字でも、太ければ見えますが細いと見えないし、太くても色が薄ければ見えないこともあります。

たとえば買い物をするとき。パッケージの文字は文字そのものが大きくても、なにかの絵柄や背景と一緒になっていると、文字ということまでは認識できても、なんと書いてあるかまではわからないことも。

また、A4の大きい紙にボールペンで大きく文字が書かれたメモが置いてあったとしても、文字が細ければ読めません。大きい字でも細いペンなどで書かれると、拡大鏡を使って読んでも空間が広くなるだけなので、よく見えないんです。この場合はむしろ、逆に普通の文字で書いてくれた方が読みやすいです。

 

見えづらさで悩んでいる人へ、どうやったら前を向ける?

じつはインタビューしている私も視野欠損があり、不安になることもしばしば。どうしたら小林さんのように前を向けるか、ずっと気になっていました。

 小林さん:好きなものや楽しいことを見つけるといいかもしれません。私がそうであったように、好きなもののためだったらやってみよう、というモチベーションになるのかな…と思います。

私の場合は「自分の思ったとおりに動きたい」という思いがとても強かった。それがちょっと大変なことでも、これで福山さんの〇〇ができる、と思ったら頑張ろうかなって。

「すべての道は福山さんにつうず」と言っても過言ではないかもしれません。

緑にかこまれた背景を背にした小林さんの写真。後ろのさくの向こうに、取材に同席したブラインドライターズ代表の和久井さんがいます。両手を挙げ、ゾンビのようなポーズでふざけて小林さんに襲いかかろうとしています。小林さんはなにかを察したのか和久井さんのいる左側を向いていて、あたかも小林さんが和久井さんの映り込みに気づいているかのような奇跡の一枚がとれました
小林さんご本人は気づいていませんでしたが、背後にブラインドライターズ代表の和久井かなこさんがいます

 

インタビュー中も淡々と話していた小林さんですが、サラッと話すひとつひとつの出来事の裏には想像を超える努力がありました。“おし”への想いを原動力に前にすすむ小林さんのパワフルなエピソードを聞きながら、いつか福山雅治さんに届いてほしいな…と思わずにいられませんでした。

今後の「ラストマン」も、ブラインドライターズのTwitterスペースも楽しみですね。

 

日曜劇場「ラストマン全盲の捜査官」(TBS)ホームページは以下URLから

https://www.tbs.co.jp/lastman_2023_tbs/

 

ブラインドライターズTwitterスペース参加方法
日時:「ラストマン」放送終了直後からいちじかん程度
参加URL:https://twitter.com/blindwriters
参加方法:ブラインドライターズのTwitterをフォローし、時間になったらスマートフォンからTwitterを立ち上げるとスペースが表示されます。

 

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