「将来、健常者と障害者の境目がなくなったときに、スタッフをどこでも通用する人材に。」ブラインドライターズの描く組織論「将来、健常者と障害者の境目がなくなったときに、スタッフをどこでも通用する人材に。」ブラインドライターズの描く組織論
議事録やインタビューに欠かせないのが「文字起こし」。いろんな企業から文字起こしソフトが発表されていますが、えーあいがどれだけ発達しても、その場の臨場感も含めて適切に起こすには人の手には、かないません。
そんななか、文字起こしのプロ集団がいる、しかもそのほとんどが視覚に障害を持った人たちの企業があります。その名も「合同会社ブラインドライターズ」。
視覚障害といえば2021年に放送された「恋です!ヤンキー君とはくじょうガール」(日本テレビ)や、2023年放送の「ラストマン 全盲の捜査官」(TBSテレビ)が話題ですが、これらが放送されるずっと前から、視覚障害と向き合い、障害を強みに変えている人たち。以前、知人からその存在を聞いてずっと気になっていました。
今回は「合同会社ブラインドライターズ」代表のわくいかなこさんに、身体に障害があるかたを中心にした雇用やビジネス、マネジメントについて伺いました。
「ブラインドライターズ」とは?
視覚に障害をもつスタッフが活躍している会社です。文字起こし(クライアントから受け取った音源に含まれる会話をテキスト化する業務。はんやく、テープ起こしとも)を中心にサービスを提供しています。このほかに文字校正、取材・執筆などの編集プロダクション業務もおこなっています。文字起こしから記事作成、冊子や字幕作成までいっきつうかんで業務を請け負っています。
また、noteでメンバーシップの募集を始めて、さっそくなんめいものファンに登録いただいているとか。月々500円から参加でき、障害当事者のかたは100円。ブラインドライターズの活動報告やバリアフリー、アクセシビリティの情報をどんどん公開していくそう。
毎週公開していく絵日記「うかうか歯も磨けません」は、スタッフの文責ハシロウ、イラストわくい犬(代表が犬のキャラに!)のコラボですが、脱力系でとても面白いです。きょうそうしてくださる企業さまも募集中だそうです。
ここの資金をもとに、インクルーシブなイベントの企画、バリアフリーのエンタメ企画、視覚障害あはき師さんのサポートなどの事業を加速させたいとのこと。
合同会社ブラインドライターズのホームページURLは以下から
https://blindwriters.co.jp/
合同会社ブラインドライターズ設立の経緯を教えてください。
和久井さん:さかのぼって少し自分の話をすると、私は1996年くらいからフリーランスでライターをしていました。当時所属していた会社のウェブでコラムを書いたら「おもしろい」と褒められたことがきっかけでした。当時はライティングと言えば雑誌や書籍など紙がメインで、まだインターネット黎明期。ウェブライターは珍しい存在でした。
それからずっとライターとして仕事をしていたのですが、2015年5月にハチじかんのインタビューを3週間で書籍にするという依頼がありました。一人ではどうにもならないスピードとボリュームです。インタビューを書籍にするとき、文字起こしは必須ですが、とてもまにあいません。
周りに相談(というか愚痴)していたら「視覚障害で文字起こしをしているいい子がいるよ」と紹介されたのが、松田昌美さんでした。彼女にお願いしたら、自分で起こすよりもずっと丁寧な原稿が上がってきました。
その後、彼女が広告塔になって、依頼が増えて、人を増やして…を繰り返して今や登録スタッフは30人超に。2019年4月に合同会社ブラインドライターズを設立しました。
著名な人にリツイートされバズった松田さんのページは以下URLから。ブラインドライターズはこのあたりから注目を集めはじめたという
https://naoko-moriyama.hatenablog.jp/entry/2015/12/15/024011
設立当初からフルリモート。スタッフ間のコミュニケーションはどうやってとっている?
「ブラインドライターズ」のスタッフや働きかたは?
和久井さん: 私自身が長くフリーランスをしており、働きかたとしてフリーのほうが馴染みがあることもあって、スタッフは全員「業務委託契約」です。ブラインドライターズのほかにも仕事をしている、いわゆる兼業のスタッフが多いです。
私はせいがんしゃですが、他のスタッフは下肢障害、過敏症など何らかの障害を持っています。全体の8割から9割が視覚障害者です。立ち上げ当時から完全なリモートワークで、居住地も北海道から九州までさまざま。通勤が難しいスタッフも問題なくお仕事をしています。
スタッフ募集の告知はどこで見つければいい?
和久井さん:TwitterなどのSNSで募集をしています。現在急激にご依頼が増えているので、ブラインドライターや校正者を絶賛募集中です! 経験不問、やる気と責任感があればOKです。お仕事なので厳しいこともありますが、成長していってもらえたら嬉しいです。
おはようございます。
弊社ではブラインドライターを募集しています。
視覚に障害があり、文字起こしの仕事にご興味のある方のご応募をお待ちしております。
https://t.co/NlBnaZlv1o— ブラインドライターズ 文字起こしのプロ集団 (@blindwriters) November 30, 2021
ブラインドライターズのTwitter
フルリモートの場合、採用はどのようにおこなっているのですか?
和久井さん:面接の代わりに、応募者にはいちじかんの音源を1週間で文字起こし(校正者の場合は校正)してもらう課題を提出してもらっています。文字起こしの基本的な知識は必要ですが、経験は問いません。あと、お仕事は基本的にメールやSlack、Dropboxでのやり取りになるため、そのあたりは使えるようになってもらう必要があります。
独特な採用方法ですね。
和久井さん:うちの仕事は、締切は絶対です。守れなければクライアントに迷惑がかかってしまう。また、文字起こしは知らない世界の話題も多く、知らない言葉を調べる根気も必要です。仕事に対する責任感やトライする気持ちは非常に重要です。
ブラインドライター募集のnoteは以下URLから
https://note.com/blindwriters/n/nce8415ce242c
コロナウイルスの感染拡大で働きかたも大きく変わり、リモートでコミュニケーションをとることに頭を抱えている企業も多いと聞きます。全員フルリモートの場合、普段はどのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか。
和久井さん:月1回、オンラインで定例会を開いて、業務連絡したりテーマを決めてみんなで話しあっています。コロナ以前は半年に1回、実際に顔を合わせるオフ会もしていたので、そろそろまたやりたいですね。今後は社内だけではなく、たくさんのかたとコミュニケーションをとっていく予定で、noteのファンクラブやTwitterスペースなども積極的におこなっていきます。
ライターの小林2です。私は子育てをしながらお仕事をしています。ブラインドライターズでは月例会などを通し、日ごろから仲間内でのコミュニケーションを大切にしています。なので、子育てをしながらでも安心して働ける場所だと感じています。
— ブラインドライターズ 文字起こしのプロ集団 (@blindwriters) November 15, 2021
ブラインドライターズのTwitter
「文字起こし」の仕事でもやっぱりコミュニケーションは大事です。たとえばさんじかん以上の音源を数日であげるようなときは、一つの音源を複数のスタッフで振り分けて作業することもあります。
Slackで、「右側で話している人は〇〇さんです」とか、「司会のかたの表記どうしますか」といった原稿の文字統一のやりとりをスタッフ同士でおこなっています。
あえて電話ではなくてテキストでおこなう意図は?
和久井さん:スタッフの稼働時間が異なるため、自由な時間にテキストでやり取りするほうが便利です。ただ、文字ベースでやりとりしているとトラブルになりやすいので、定期的に口で話すことも大事だなとも思っています。
「大爆発」がきっかけで会社がひとつになった
じゅんぷうまんぱんに見えますが、ずっと順調にきているのでしょうか?
和久井さん:実は2021年の春、私が「仕事しません」って大爆発したことがありました。スタッフと私の間ですれ違いが生じて、1か月ぐらいずっと怒っていたんです(わらい)。
しかも私が仕事を放り出しても誰も動いてはくれず、仕事は溜まる一方。それまでは「自分は完全に黒子(くろこ)に徹して面倒くさい部分は自分が引き受けよう」と思っていたので、クライアントとのやり取りや営業、管理などの雑務は私が一人でおこなっていました。だけど私が何をやっているのか、誰も知らなかったんです。
この時はじめて、私はスタッフに対して、伝えるべきことを伝えていなかったことに気づいたんです。
そこで、何人かのスタッフと個別に連絡を取り、どうして私が怒っているのか、今後、会社をどうしていきたいか話し合いました。結果的に、スタッフの中から幹部候補を育てることになったんです。
経営者の知人からは、「外から招いたほうが早いし、ゼロから人材は育たない」と軒並み反対されました。でも、必要だと思ったんです。
健常者が管理して障害者を使うのでは、よくある形で社会的に進歩がありません。そうではなくて、自立して活躍する人を育てたい。機器の発達や人の意識も変わっていくことを考えると、将来、健常者と障害者の境目はほとんどなくなると思っているんです。
そうなったときに、ブラインドライターズのスタッフが健常者と張りあえるビジネススキルと考え方を持っていたら、生き残っていけるはずです。幹部候補の募集をかけたところ、何人も立候補してくれました。今は週に1回、オンラインミーティングをおこなって話し合い、社内の采配の大部分を担ってくれています。しみじみ、みんなの厚意で成り立っている会社です。
現在、ブラインドライターズ幹部候補チームでミーティング中です。毎週、定期的に集まり、ロープレやったり問題点をディスカッションしたり、会社と個人のレベルアップに取り組んでいます。今はブレイクアウトルームに分かれて、各チームお代に取り組んでます。和久井はお留守番です。
— ブラインドライターズ 文字起こしのプロ集団 (@blindwriters) November 4, 2021
ブラインドライターズのTwitter
幹部候補を募ってから、効果を感じることは?
和久井さん:強くあります。スタッフが自発的に営業して、仕事を受注したんです。それも営業経験のないスタッフが自らリストを作って、電話で売り込みをして…。
すごく成果が出ていて、その年の10月は過去最高益となりました。今まで孤軍奮闘して来ましたが、スタッフ個人の意識が変わるだけでこんなに成果が出るのかと驚いています。
スタッフの士気をあげるための秘訣は?
和久井さん:それぞれの自己肯定感をあげていくことが大切だと思っています。こまめに感謝を伝えたり褒めたりして、人から必要とされていることを感じてほしい。
クライアントに文字起こしの原稿を納品した際にいただいたコメントは必ずシェアしています。私の大爆発も結果的に、ブラインドライターズでの仕事を受け身ではなく、自分ごとにしてもらえるきっかけになったのかもしれません。だから自主的に営業してくれたのだと思うんです。
それまでブラインドライターズの特徴や会社の方針をちゃんと言える人があまりいなかったけれど、自分たちで伝えられるようになっています。でもやっぱり、「ブラインドライターズが好きだから続けていきたい」って思ってくれていた人がいたことが大きいです。
だから、ブラインドライターズのスタッフはどこでも通用する人材になっていってほしいし、その上で「ブラインドライターズが好きだからここで働く」という「選ばれる」会社にしていかなきゃいけないなと思っています。
これから障害者雇用を検討している会社にアドバイスがあればお願いします。
和久井さん:障害を持っている人に対してかわいそうだとか、個性だとかではなく、特別扱いをしない気持ちがいちばん大事だと思います。もちろん、障害について配慮すべきところはあります。でも聞いてはいけないわけではないですし、聞くと案外フランクに答えてくれる。できることとできないことは本人に聞いちゃっていいと思うし、そうやって理解し合おうとする姿勢が大切なのかもしれませんね。
代表和久井です。
先日、スタッフの野澤幸男くんと麻雀やったんです。彼は牌の側面に点字シールを貼ってて、側面から盲牌します。そのため手牌を伏せたままプレイするんです。
なんか魔法使い感がハンパなかったです。— ブラインドライターズ 文字起こしのプロ集団 (@blindwriters) November 3, 2021
スタッフと麻雀をしたときのTwitter
そして、この #恋です !のオンエア翌日である木曜日は、街の人が優しく感じるという、視覚障害者のツイートがちらほら。
うれしいですね~♪ ヤンガル効果!!これが当たり前の日常になるきっかけになってくれたらいいなぁ。 🍁
— ブラインドライターズ 文字起こしのプロ集団 (@blindwriters) November 11, 2021
優しい未来になることを祈っています
本記事は、2021年にさうざんすまいるずのnoteで掲載した記事をもとに加筆、修正しています。
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