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まっくらやみでわなく、想像したカラフルな世界を。目の見えない精神科医が、色鮮やかに紡ぐいま

勤務する病院の診察室で、著書の目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったことを両手で持ちながらほほえむ福場先生の写真。著書の表紙にも福場先生のイラストが描かれており、こうやって見てみるとそっくりなのが伝わってきます

今、話題の一冊『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』をご存じでしょうか。

読者と同じ目線でやさしく語りかけられるこの本は、読みながらホロッとしたり、クスッと笑ったり。味わうほどにじんわりあたためられる、“読む”処方箋のような一冊です。

著者は、福場将太先生。NHK北海道などにも登場されているので、ご存じのかたもいらっしゃるかもしれません。

仕事は精神科医、持病は網膜色素変性症、ライフワークは音楽と文藝の創作。支援者で当事者で、「オモロイ」がギュッと詰まっている福場先生。以前参加したオンラインイベントでお会いしたのがきっかけで、すっかり先生のファンになってしまいました。

そのあと、2024年10月にサンマーク出版から『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』という書籍が刊行されるやいなや、「これはもう、呼ばれている!」と。

発売されたばかりの書籍を携えて、北海道美唄(びばい)市へインタビュー取材に伺いました。

 

美唄すずらんクリニックの外観写真
福場先生の勤務する、美唄すずらんクリニック

 

3回にわけてお届けする福場先生のインタビュー。2回目には、楽しいことや面白いことが大好きな先生ならではの生きるヒントを。そして、第二のふるさと、美しき唄のまち北海道美唄市への思いも伺いました。最終回には、福場先生の人生と深くかかわりあっている馴染み深いあのキャラクターも登場します。どうぞお楽しみに!

 

目のみえる人も見えない人も読むことができる本を

福場先生:今回の書籍は、「病気を宣告されてからの20年間に及ぶ、私の見えない探し物」の記録です。

出版にあたっては、目のみえる人も見えない人も読むことができる本を、と思って執筆していました。目が見えている読者を前提にした書籍にはしたくなかったのです。サンマーク出版さんもよくご理解くださり、おかげさまで紙媒体だけではなく、バリアフリーなかたちで出版できることになりました。

電子書籍は現在、Kindleなどの音声でも読むことができます。オーディオ版もサンマーク出版で制作中です。また、視覚障害者をはじめ、目で文字を読むことが難しいかたには、さまざまな情報を点字、 音声データなどで提供する「サピエ図書館」でも制作がはじまっています。

なお、テキストデイジー版はすでに登録されており、お楽しみいただけます。7月に点訳版(てんやくばん)が出版される予定です。

 

手に持たれた「目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと」の写真。白黒のシンプルなひょうしに、福場先生をイメージしたイラストが描かれています。ほんのおびにわ「人生の暗闇を、ぬけだそう。」と書かれています
楽しみで発売前に予約してゲットしました

 

話し言葉も書き言葉も、読みやすさや聞きやすさが大事

そよ吹く風(かぜ)に乗って、どこからともなく心地よい音楽がきこえてくる。そんなイメージがぴったりの福場先生の文章は、自然といつのまにか福場ワールドに惹き込まれていきます。

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」という井上ひさしの言葉と重なりました。

 

福場先生:僕は、文章を書くのが好きなんですよね。今回、執筆期間が短いながらに書けたのも、クリニックのコラムをはじめ、これまでにいろんな執筆の機会を重ねていた土台があったからだと思います。

話し言葉も書き言葉も、読みやすさや聞きやすさが大事だと思っています。わかりやすく伝えるにはどうしたらよいかということは、いつも意識していますね。

 

顎に左手を添え、にっこり笑いながらおはなししている福場先生の写真
取材後に写真を見返すとどれも笑顔の写真ばかりでした

 

“マジックアワー”からの新たなはじまり

福場先生が指定難病疾患である網膜色素変性症と診断されたのは、さあ、これから!という医学部5年生のころ。

できることなら、苦境になんて立たされず平穏無事に暮らしたい。わたしのようにそう思ってしまう人も、きっと多いと思います。でも、目の状態も次第に悪化していくなかで医師国家試験に落ちてしまった福場先生は、「ちょっとホッとした」そう。

「良くも悪くもレールから外れずにきたけれど、一回外れて、もう一回やろうと気持ちの整理をつける時間が持てた。あそこで外れていなければ、こんなに長くお医者さんをやっていないのでは?」と言います。

著書の前半、先生の半生を紹介した箇所では、ご自身の目が見えなくなる最後の数年を“人生のマジックアワー”と表現されていました。

 

福場先生:そもそも医者になる覚悟もできていなかったので、目のことには関係なく、医者になるかどうかを迷っていたんです。さらにそこに目の話も入ってきて、ますますこれからどうするんだっていう困惑状態になりました。

卒業はしましたが、国家試験は落ちてしまった。一種の解放感のようなものもありましたが、でもじゃあどうするの?という不安も当然ある。やはり模索でしたよね。浪人生のフリをしながらいろんなことをやってみました。たとえば音楽のイベントに出てみたり、いろんな小説のコンテストに応募してみたり、錦糸町の駅前でティッシュ配りとか。いろいろトライしましたが、なかなかそれで暮らしていけるはずもなく…。

 

色とりどりの生き方に出会って

福場先生:医学部にいると、どうしても医学関係の人との出会いに限られてしまうところがあります。

でも、浪人生時代にいろんな生き方をしている人に出会ったんですね。自分のなかで、生き方の幅が拡がりました。だからこそ、「絶対にこの道を行かねば!」などと思いすぎず、今、できることからやってみよう!という気持ちになれたのでしょうね。

とはいえ、すごく前向きになれたわけではなく、どちらかと言えば「しゃあねぇなあ」くらいの気持ちで歩き出したのかもしれないですけれどもね。

 

少年のような笑顔でおはなししている福場先生の写真
バリトンボイスの素敵な声の先生です

 

まっくらやみではなく、想像したカラフルな世界を生きてる

つい反論したくなるときがあります。たとえば、何かステレオタイプにあてはめて、勝手に判断されてしまうときなど。視覚障害者は視覚を失って生きているわけではないよ、と。福場先生は著書のなかでじつにやんわりと、思わず膝を打つ素敵な表現をされています。まさに、言い得て妙(いいえてみょう)!

 

福場先生:「視覚障害者」と聞くとどうしても視覚がない、みたいにおもわれがちなのですよね。でももしかしたら、視覚を失ったわけではなく想像力(そうぞうりょく)の視覚で暮らしている人たちと言えるのではないかって、そういったニュアンスの言葉を探していて考えたのが、「視覚想像者」という言葉です。

想像は、イマジネーションという意味の漢字を使っています。生まれながらにして目の見えない人は、さらにクリエイションという意味の創造という漢字を使った「視覚創造者」。まあ、ダジャレなんですけれどね。

でもこれは視覚に限った話ではなく「なにかの代わりに別の力で暮らしている人たち」と考えれば、あらゆる障害にあてはまると思っています。

 

視覚がでしゃばっているけれど

「音(おと)」にまつわるエピソードのなかでも、ひたひたと静かな感動が押し寄せてきたのは、「月」をどのように感じるようになったのか、というくだりです。

ほんとうに大切なことを、わたしはどこで感じ取っているのだろうかと、問われました。著書のなかで、「声」もまた “人間にとっての第2の顔”なのだと。

 

福場先生:よく、情報の8割は視覚から得ていると言います。視覚がでしゃばっているので、視覚があるとなかなか声に意識がいかない。僕も目が見えていたころ、声にそんなに注目していませんでした。

でも、視覚がなくなるとおのずと声が頼りになるので、こんなに違うものかというぐらい、同じ人でも日によって声色がまったく違います。声に表情があるなって、目が悪くなって気づきました。

同じ人と何回も会っていると、今日の声はなんかいつもと違うとか、高い、低い、テンポが遅いとか、なんか言葉が遠回しだな、など気づくことがあるのです。

もちろん表情も大事ですが、声は情報のリソースとしてもすごく大きいです。それに声をとりつくろおうとしている人って、あまりいませんよね?

 

ひとめぼれならぬ、“耳惚れ”があったっていい

福場先生のお声も素敵です。ふくよかなバリトンボイスの語りは、まるでラジオDJのよう。

 

福場先生:僕はプライベートで曲の制作もしていて、自分のホームページ上で公開しています。目の見えない人が主人公というわけではないのですが、先日、声に恋をするという歌も作っちゃいました。

声の魅力ってあると思いませんか?好きな声を前面に出して、目がみえる人も見えない人も同じように楽しめる歌ということで、心ときめくバリアフリーラブソングを作りました。あ、でも、箸休めの意地悪な曲も好きですね!

 

福場先生のバリアフリーラブソングURLは以下から

https://micro-world-presents.net/cat_musics/26/

 

辿ってきた道にこそ、大切な宝がある

著書のなかでも回り道や寄り道が大事だと書かれていた福場先生。先生にとっての「なくてはならないものは?」とお尋ねしたときも、その答えは、ごくシンプルでした。それは、例外なく誰にとっても大事な宝なのだと気づかされました。

 

福場先生:僕は、思い出に残ること、好きなことをしていくことを大切にしています。エネルギーになるものの1つは、人との出会いなんです。新しい人と出会って話しをすると、エネルギーになるものになります。もう1つは、ああ、楽しかったなって振り返ることのできる思い出もそうですね。毎日ではありませんが、楽しかったと思うことのできることを、ときどき必ず作るようにしています。

僕が在籍していた高校は体育祭(たいいくさい)がやたら熱い学校で、その思い出が一生のエネルギーになっているくらい楽しかった。そのような思い出があることは恵まれていると思います。

大人になっても楽しいことをしていくことは大切です。そこはためらわずにいきたいですし、楽曲制作など楽しそうなことや、面白いことはやろうと思っています。

 

サンマーク出版「目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと」ページURLは以下から

https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=4173-6

 

福場将太 オフィシャルウェブサイト「MICRO WORLD PRESENTS」ページURLは以下から

福場将太 Official Website

 

本文ここまで

 

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