遠隔就労の、あたらしいかたち。OriHimeライターによる記事作成の裏側遠隔就労の、あたらしいかたち。オリヒメライターによる記事作成の裏側

今回は少しだけ、いつもとは異なる記事を書こうと思います。
サウザンスマイルズは「もうあと1000人を笑顔にする」ことをミッションに掲げています。
2022年からスタートしたこのサイトは、視覚に障害のある人が主なユーザーのスクリーンリーダーという音声読み上げソフトに対応しています。
ほかとは少しだけ異なる特徴をもつこのサイト、だからこそ運営を続けるなかで「せっかくであればなんらかの障害をもつ当事者に記事制作に関わってもらえないか」と考えていました。そして小さなサイトながらも記事を更新してみて痛感したのが「ライター不足」。
きっとこれは業界全体の悩みではないでしょうか。自分で運営してみて改めてその深刻さがわかりました。
このふたつの要素をうまく掛け合わせられないかと、昨年から、こっそり試行錯誤を繰り返していました。今回はその取り組みについて書こうと思います。
11本の、とある記事
お気づきでしょうか。
これまで掲載してきた記事のなかに、実はわたしたち以外のライターさんに書いてもらった記事が全部で11本ありました。
これらは遠隔操作ロボットのOriHime(オリヒメ)を遠隔で操作する「パイロット」と呼ばれる人たちに協力いただき、自宅や病室から遠隔で書いてもらったもの。気づかずに読まれていたものもあることでしょう。

記事の内容はさまざまで、商品のレビューから、座談会、お出かけレポート、インタビュー記事から発表会参加レポートまで。せっかくなので、今回は記事制作の裏側と合わせてご紹介します。
どうやって書いていた?
今回、個性あふれる3人のパイロットにインターンとして協力いただきました。
レビューの鬼、誕生
パイロットのひとりには、ひたすらレビュー記事を書く「レビューの鬼」になってもらいました。
ご自身の視点で商品を語ってもらうのはもちろんですが、商品の買い出し以外のこと、具体的には掲載する商品のネタ出しから撮影、文章作成まで一連の流れをパイロットにお願いしています。
トレンドのコスメやお菓子を実際に試し、記事を作成してもらいました。
トレンドに詳しいかたなので、わたしもマネして同じ商品を買ったことも。
回数を重ねるたびに文章や写真もパワーアップしていき、背景までこだわったバッチリな写真のついた原稿が届いたときには思わず声が出ました。
座談会、からの浅草寺散策
ご友人と座談会を組み、車いすユーザーのリアルな事情をお話いただいたパイロットも。
この記事の作成にあたっては、お話を伺うご友人へのお声がけはもちろん、座談会で聞いてもらう内容や、当日の進行役もおこなってもらっています。文章を書くことだけがライターのお仕事ではありません。
そして、この座談会記事のトップ画像がきっかけで、つぎに紹介する浅草寺散策が決まりました。
次の記事では、わたしがOriHime(オリヒメ)を連れて浅草寺を歩き、車いすユーザーの視点ではじめての浅草寺をリサーチしてもらいました。
具体的には、浅草寺にいるわたしと他県に住む車いすユーザーのパイロットをリアルタイムでつなぎ、「浅草寺に行くとしたらチェックしておきたいポイント」について、散策を通して記事を作成してもらうというもの。浅草寺付近のバリアフリー設備やトイレについて、ここまで踏み込んだ記事はなかなかないかもしれません。

遠隔おみくじも敢行しました。わたしがおみくじの棒が入った容器をガラガラ回しながら「ストップって言って!」「はいストップ!」とロボット越しに引きました。夜に実行したものの、まわりの人に不思議な目で見られていたのも今となってはいい思い出です。

わたし自身、プライベートでこの記事以外に昨年3回、浅草寺でおみくじを引きましたがすべて凶。なぜかこのときだけ一発で大吉。大吉を引いた瞬間の、パイロットからの「なんでやねん!」は一生忘れません。

北海道への出張インタビュー
「インタビューをやってみたい!」というパイロットからの提案で、北海道の美唄市まで飛行機に乗って出張インタビューも敢行しました。
候補者探しからアポイント、手土産選びから原稿校正のやりとりまですべて、病室からパイロット本人におこなってもらっています。「目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと」(サンマーク出版)の著者である福場将太先生をインタビューしました。
今思えば、この時期はしょっちゅう企画会議をしていました。

じつはこの3本の記事のなかの写真の数枚は、パイロットが撮影したものです。
今回のインタビューのような、ここまで温度感のある記事はきっとAIには書けないでしょう。
そんな、温かみを伝えられるのもOriHime(オリヒメ)だからこそ。
記者として発表会に参加
この企画の構想段階から、どうしても実現したかったことがありました。
それはOriHime(オリヒメ)ライターに記者として発表会に参加してもらい、発表会レポート記事を書いてもらうこと。
わたしのなかで、ライターや記者といえば発表会というイメージがあったからかもしれません。
そしてその願いを叶えてくれたのは、館内のあちこちに最新の技術やロボットたちがたくさんいる、ロボットフレンドリーな日本科学未来館(にっぽんかがくみらいかん、以下、未来館)でした。
メディア向けの記者発表会に「記者1人、ロボット1人」で参加したのはおそらく日本ではじめて、もしかしたら世界でも例を見ないかもしれません。
そんなチャレンジングな試みにも「おもしろそうですね!」と快諾いただいた未来館のみなさまには頭が上がりません。

そしてもう一つ、印象に残っている記事があります。
こちらも未来館の記事ですが、「PLAY DOME(プレイドーム)」という、ドームシアターのメディア向け試写会のときのものです。
会場ではわたしの膝のうえにOriHime(オリヒメ)を乗せて鑑賞、というところまでは変わらないのですが…。じつはわたしの目には視野欠損があり、正直なところドームシアターは少し苦手でした。
つまり、当日はわたしがOriHime(オリヒメ)を連れて会場を訪れ、会場では遠く離れた他県の病室からレンズ越しにわたしの視野の一部を補ってもらっていました。文字どおり“二人三脚(ににんさんきゃく)”で作成した記事です。

こうやって補い合いながら仕事ができる時代に生まれたこと、テクノロジーがそれを手助けしてくれたこと、そしてそれを可能にしたのは人であること。
どれかひとつ欠けても、この企画は成立しませんでした。この時代だからこそ実現できた取り組みです。
新たな遠隔就労のかたち
外出や移動が難しくとも、今はOriHime(オリヒメ)をはじめとするテクノロジーのおかげで世界中を動き回ることが可能になりました。
そして動き回ることができるなら、ライターや記者としてのお仕事もできるのではないか、という仮説を実証するのが今回のインターンの目的でした。
裏ではもちろん書き直しや修正はしていますが、とくにお出かけや発表会記事が遠隔で取材され、作成されたものであるとは気づかれにくいでしょう。
これがわたしたちなりに考えた“もうあと1000人を笑顔にする”ための、OriHime(オリヒメ)を使った、新たな遠隔就労のかたちです。
そして、うれしいことがもうひとつ。
インターンは終了しましたが、これをきっかけに新たな挑戦をはじめたパイロットもいます。
この取り組みが何人かの笑顔につながったことが今回のもっとも大きな収穫でした。
もうあと1000人を笑顔に、なんて言いながらもいちばん笑顔にしてもらったのはわたしたちかもしれません。
本企画に多大なる協力とチャンスをいただいたオリィ研究所のみなさま、あらゆるはじめてを可能に導いてくださった日本科学未来館(にっぽんかがくみらいかん)のみなさま、突然の問い合わせにもあたたかく迎えてくださった「目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと」著者の福場先生、そしてこの企画に参加してくれたパイロットのみなさま、本当にありがとうございました。
わたしたちの挑戦は、きっとまだまだ続きます。
今回ご協力いただいたパイロットのみなさま(パイロットネーム)と、執筆記事URLは以下から
ご~やchan執筆記事
みんてぃー執筆記事
ようぽん執筆記事
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