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しもつかれぶゆうでん

宇都宮駅のお土産コーナーでみつけた、袋に入ったしもつかれの写真

しもつかれ、と聞いてピンとくる人はきっと栃木県にゆかりのある人だろう。

知る人ぞ知る、栃木県の郷土料理。わたしが幼かったころは、学校の給食でも一年に一度、登場する郷土料理だった。

 

おかわり争奪戦

学校の給食が好きだった。

いつも残さず食べたし、なんなら好きなメニューの日は男子に混ざっておかわりもしていたくらい。
人気メニューの日はとりわけおかわり倍率も高い。そんな日は給食当番の子にちょっと言って、気持ちおおめにもりつけてもらうのがポイントだったりする。

「わたしこんなに食べられない」なんて言って気のある男子にお裾分けできる女子…ではなかった。給食は戦いだ。狙ったおかずをおかわりするために早く食べるか、給食当番にかけあって効率よくもりつけてもらうか。ある意味で体力勝負で、またある意味でわずのうせんだった。あのころからずぶとさとくいいじだけは人一倍あったと思う。

 

おかわりしたら、勇者になれた

そんな給食ライフのなかで、一年に一度、郷土料理のしもつかれが登場する日があった。しもつかれとは、酒かすや野菜、魚、穀物が入った、栄養たっぷりな栃木の郷土食。今となっては食育の一環だと理解できるけど、あの当時はそのビジュアルと独特の香りや味から、苦手な子が多かった。今思えば、幼かったわたしたちには酒かすの香りはちょっと早かったのかもしれない。

たぶんその日はわたしもかなりおなかがすいていたんだろう。みんながしもつかれを前にしかめっつらをしているのをよそに、わたしはひと口、またひと口ほおばる。

「これ、意外といけるじゃん。」

ペロッと平らげた私は、お椀を持って前に進み出る。そして大量にしもつかれの入ったでっかい容器の前に立ち、おかわりぶんをよそう。

クラスメイトが私を見つめる。「あいつ、いったぞ」「おい、まじかよ」って。ちょっと得意な顔をしながら、しかし颯爽と、しもつかれのお椀を片手に席に戻り、またほおばりだす。クラスメイトから羨望の眼差しを浴びながらもぐもぐするわたし。悪くない。この日この瞬間だけ、わたしは勇者になった。

と、いうことを家で話したらあっというまに母からおばあちゃんに伝わり、ある日大量のしもつかれがうちに届いた。どうやらわたしの「しもつかれぶゆうでん」は親戚じゅうをめぐり、おばあちゃんの妹がわたしのためにつくってくれたらしい。

ありがたかったけど、あの日ほどモグモグ食べ進められなかったし、さすがに完食もできなかった。それ以来、しもつかれとはご無沙汰していた。

 

しもつかれとの再会

あれから約20年。
社会人になり、仕事で郷土料理を現代風にアレンジするレシピコンテストの取材をしたときのこと。ふと、しもつかれを思い出した。そういえばしばらく食べていない。嫌いだったピーマンも食べられるようになったし、味覚がちょっと大人になった気もする。今しかないと思った。

思いきってあのしもつかれをもう一度食べてみることにした。ネットでは買えなくて、栃木に住む母に連絡して地元のスーパーで買って送ってもらった。ひょっとしたら、今ならおいしく感じられるかもしれないと、淡い期待を込めて。

数日後、自宅にしもつかれが届いた。

しもつかれが入ったパッケージの写真。縦長のビニール袋に入っており、口がかなぐでとめてある
しもつかれのパッケージ

 

あの、酒粕や魚の生臭さがある独特の香り。小刻みになった具材。小学生の頃の記憶がよみがえる。箸の先にちょっとだけのせて食べてみる。想像以上にツンとした味でびっくりして、幼いころのことを思い出す。でも待てよ。げんざいりょうめいをみると、だいこん、酒かす、にんじん、鮭の頭、いりだいず…。んー、やっぱりそうだ。酒粕がたくさん入った、冷たい味噌汁のような味がした。

 

しもつかれをお皿によそった写真
約20年ぶりのしもつかれ

 

「生臭いぐちょっとしたやつ」を「酒粕たっぷりの冷たい味噌汁の具材」に上書き変換したら、普通に食べられた。お皿にもりつけたぶんを完食し、2杯目に突入。狙ったわけじゃないが、約20年ぶりのおかわりをした。そして、しもつかれに味噌を追加、お湯をそそぐとまあ不思議。どこかあらじるみたいな味の味噌汁になった。

 

しもつかれをいれたお味噌汁の写真
しもつかれ味噌汁

 

そして、しもつかれがちょっと好きになった

それからさらに時はたち、先日久しぶりに地元に帰ったときのこと。駅のお土産コーナーを歩いていたら、冷蔵コーナーで数年ぶりにしもつかれと再会した。ぎょうざ、いちごを使ったお土産もあるけれど、それらには目もくれず「久しぶり。こんなところで会うなんて」と手に取りレジに並ぶ。まるで、地元の花火大会で偶然、旧友に会ったときのような感覚だ。

 

宇都宮駅で買った、前回母に送ってもらったものと同じパッケージのしもつかれの写真
あの日と同じしもつかれが宇都宮駅にいた

 

前回しもつかれを食べたあたりからすっかり私は味噌汁にはまり、今年は自宅でかつおぶしを削るべく「かつおぶしけずりき」を迎えた。しかも自宅に味噌もあるし、これはやるしかない。最近のマイブームで、味噌汁にごま油をちょっと垂らすと香りがよくなってさらにおいしくなることも知っている。

 

かつおぶしけずりきとかつおの写真
かつおぶしけずりき

 

お椀に味噌と、削りたてのかつおぶし、そして具材のしもつかれ。お湯をそそいで、仕上げにごま油をたらす。簡単だけど、具だくさんでおいしい味噌汁になった。

しかも以前の味噌汁よりもちょっとだけパワーアップしている。ほとんどの具材はこまかくなっているけれど、ときどきかたちをのこしたままの大豆や魚をみつけると、ちょっとうれしくなる。

ほっこりして、落ち着く味。ありのままのしもつかれではないけれど、こうやって、向き合えるようになるのはちょっと気分がいい。何回か味噌汁をおかわりして、すっかりしもつかれが好きになっていたことに気づいた。

 

しもつかれを具材にした味噌汁にごま油をたらした写真、まわりにが容器にうつしかえたしもつかれと、かつおぶしけずりき、かつおがある
しもつかれ味噌汁2022

 

給食のしもつかれを食べたら勇者になれたあの頃は、それがぶゆうでんとばかり思っていた。でもゆっくり時間をかけて、しもつかれを好きになれたことのほうが今となってはちょっとだけ誇らしい気がする。

 

本文ここまで

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